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2006年04月18日

●実録・ボクがハブに噛まれた理由(ワケ)最終回

さて、いよいよ最終回です。

ハブに噛まれているとも知らず
山中で一夜を過ごしたtaigaは・・・・

その顛末をお読み下さい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

結局、右足をさすりながら、痛みで一睡もする事ができなかった。

木の枝の黒い陰の向こうを
ゆっくりと動いて行く三日月を眺め
「三日月があの枝まで動いたら午前三時くらいかな?
あの向こうの枝まで行けば夜が明けるかな?」と念じながら
夜明けを待った。

ようやく待望の朝日が昇り、小鳥達がさえずり始めた。

「もう、これだけ休んだのだ、足の炎症も少しは治まっただろう。
さあ、もう帰れる!

ボクは相棒を起こすと、立ち上がって歩きだろうとしたのだが
その途端、ギクッ!と激しい痛みが全身に走り
ボクはその場に倒れ込んだ。

だめだ、こりゃ歩けそうもない。

「悪いけど、一人で集落に行って助けを呼んできてくれ」

相棒が薮の中へ消えると
2分もしないうちに
すぐ近くから間の抜けた相棒の声が聞こえた。
「お〜い・・・すぐそこがもう海だったぞぉ〜」
「えぇ〜?」

実は海岸線まであと10m程のところまで来ていたのだ
そのことに気づいていたなら、昨夜のうちに宿に着けたのに・・・・・

しばらくすると、集落の方が救援に駆けつけて来てくれ
2人に担がれて軽トラックの荷台に載せられ
島にある診療所に担ぎ込まれた。

診療所の医師はボクの状態を見るなり
「こりゃ、ハブにやられたんじゃないか?」
と言う。

その時のボクはうかつにも鼻で笑ってしまったのだ
センセー、ハブに噛まれてたら今ごろはとっくに死んでますよ!

蛇に噛まれた覚えも無いし、傷みも無かったと訴えたが
「いや、どこかに傷口があるはずだ」と
湿ったGパンを脱がされ、
見ると、右足のひざから下がブワァーと腫れ上がっている。

良く見ると、ちょうど脛(すね)の骨の上辺りに
点のような傷口が二つ。
「ほらぁ、これがハブの噛み痕だよ」
点のような二つの傷の間隔は約2cm
これがハブの牙の間隔だとすると・・・頭の大きさは・・・(恐怖!)

・・結構でっかいハブじゃなかねー!!

「先生、この島、結構ハブに噛まれる人は多いんですか?」と尋ねると

「そんなことはないなぁ・・・
う〜ん、たしか10年前に大学の先生が調査に山に入って噛まれてねぇ・・
どうやら手首を噛まれたらしくて
ヘリコプターで那覇まで運ばれたけど・・・
その人・・・結局死んだみたいだよ。

ひぇ〜!(恐怖、恐怖、恐怖!)

足が重くなり始めたのはと問われて、昨夜午後7時頃と答える。

その医師が言うには

「おそらく、噛まれてからもう12時間は経っているので、既に毒は身体に回り切っている。
だから、今更、血清注射を打っても効果が無い。
死なないから大丈夫。
でも、腫れが酷いので放置すると毛細血管が圧迫されて
神経が死んでしまったりして後遺症が残る可能性がある。
それを防ぐには、パンパンに腫れた足の皮膚に切れ目を入れて、
つまりチャイナドレスのスリットの様に切れ目を入れて腫れの圧力を逃がす必要がある。
かなり派手な傷跡が残るが、男だから・・まあ、良いよね。
その手術はここではできないから、沖縄の病院に入院して下さい。

ちょうど、すぐにやって来るフェリーに乗って那覇へ向かう事になった。
もちろん歩けないから、また軽トラックの荷台に載せられて港まで向かう
そこからは、船員さんに担がれての乗船。
ひやー、恥ずかしい・・・。
koutuu1.jpg

ぐらぐら揺れる船内で痛みに耐えながら
とても惨めな気持ちで那覇への船旅。
途中、どうしてもトイレに行きたくなり
でも手伝ってもらうのはヒジョーに恥ずかしいので
痛みで脂汗をかきながらも
必死になって片足でトイレに向かう
我が身が哀れである。

ようやく那覇の泊港に着くと
なんと!救急車が岸壁に横付けにされていて
担架に乗せられ、救急車に乗って病院へ(恥ずかしー!)

気がつくと救急車は高速道路を走っている
「おいおい、どこまで行くんだよー(泣き!)」
kyukyu.jpeg
結局、40分ほど走って、
着いたのは具志川市(現うるま市)にある
沖縄県立中部病院。

緊急入院して
ベッドに寝かされGパンを脱がされると
なんと!もう足の付け根からパンパンに腫れ上がって電信柱の様になっている。
それを見て驚いた医者は
きっと毒が回り始めたと思ったのだろう
「血清!二倍、二倍!」と叫ぶ。

とにかく血清注射を打たれて、
麻酔医の説明や手術の同意書などを書いていると、
寝ているボクの頭越しに
「先生、帝王切開の緊急オペ入りまーす」との声

「それじゃ、ヤナギサワさん、その後にしましょうねぇ〜(沖縄方言)」
そりゃ、ないですよ〜

でも結局、足の腫れは毒が回り始めたせいではなく、身体を動かしたからのようで
手術の順番を待っている間に足の腫れはどんどん退き始めた。

「あー、ヤナギサワさん、これはもう切らなくて良いね

・・と言うわけで、帝王切開の妊婦さんにも助けられ
なんとか手術もせずに1週間で退院することができた。

ただ入院中に困った事といえば
沖縄でもハブに噛まれて入院というのは珍しいようで

寝ているといきなりバッと毛布をはがされ
「皆さん、見て下さい。これがハブ咬傷です。
と医学生さんに囲まれ、見学されること。

沖縄の友人に「ハブに噛まれて入院している」と
電話すると
「ゴメン、今、何て言った?・・・
良く聞こえなかった、もう一度言って」
と聞き返されることだった。

結局、後遺症も無く、傷跡も残らず元気に退院できた訳で
結構、奇跡の生還だったと思う。

何故、これほど軽く済んだのかを自分なりに分析してみると。

その1

11月でハブの活動期ではなかったため
ハブに噛まれたというよりは、ボクがハブを蹴ったのではないか?
つまり、突然のボクの登場に驚いたハブが開けた口の牙が脛(すね)に当たっただけだったので
牙が深く刺さらず、毒が微量しか入らなかった?
(ハブの牙は先端より少し奥に毒の出る穴がある。)

その2

ハブに噛まれていた事に気づかなかったので
無理に動き回らなかったこと。
(もし、ハブに噛まれた事に気づいていたら、
ボクは死に物狂いで動いて、返って症状を悪化させたと思う)

つまりは、単に運が良かっただけ。
本当に恥ずかしい限りである。

それにしても、何故、ボクはハブに噛まれた痛みを感じなかったのか?

一般には、ハブに噛まれると
「焼け火箸を差し込まれたような」痛みを感じると言われている。
でも、調べてみると
「夜、軒下の鳥籠が騒がしいので手を出すと、何かに当たった様な気がして、
朝になったら指が腫れてきた」
「木の上からハブが落ちてきて、頭を噛まれたが痛みは無かった」
という例もある。

つまり、噛まれても牙が深く入らない時には
あまり痛みは感じないし、毒もほとんど入らない。
牙が深く入って毒液が注入されると焼けるような痛みを感じるようだ。

奇跡の生還とはいえ
単に運が良かっただけ
あまり褒められる話じゃない。

もしもあの時、運悪く、動脈の近くを噛まれていたら・・・と思うと
心底、ぞおーっとする。
あの時、死んでいたんだよな・・・と思う。

死の直前には、
まだ生きたいという焦燥感と現実に死ぬと言う恐怖の間に苦しむのだろうか?

きっと、夜のうちに冷たくなったボクを発見して
相棒は驚愕したことだろう。

こんな話をしている今でも、
その時の事を想像すると
寒けがして全身に鳥肌が立つ思いだ。

元はと言えば
自分の軽率な行動から
多くの方にご迷惑をかけた。

最初に助けを呼んでくれた相棒。
救助に来てくれた渡名喜島の集落の皆さん
診療所の先生
背負ってフェリーに乗せてくれた船員さん
港まで迎えに来た救急隊員の皆さん
沖縄県立中部病院のお医者さん、看護士さん
お見舞いにきてくれた方に
この場を借りて
改めて感謝したいと思う。

(ご愛読ありがとうございました)

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コメント

本当に奇跡の生還だったんですねー。
職場でこっそり、ウインドウを小さくしてみんなに感づかれないようにハブ話読んでいたんですけど、読み進んでいくにつれ、いつ、ブワァーっと腫れた足の写真が出てくるかとワクワクしていたのだけど、そんな写真撮る余裕なんてなかったですよね。
生と死の狭間で考えさせられる機会って滅多にない(たくさんあったら困る!)。
そんな貴重な経験を通して今のタイガさんがあるんですね。
ハブネタ、思いっきり笑わせてもらいましたが、本当は奥が深いのですね。

patinhaさん
コメント一番乗りありがとうございます。
最初は笑いながら話しているんだけど、
最後にはちょっと怖くなるというのがこのお話です。
けっこう大失敗だったわけで、状況判断や引き返す決断について
色々と考えさせられました。
病院で退院まぎわに「腫れた足の写真撮っとけば良かったな」と思いました
そのぐらいスゴイ腫れでしたよ。

興味深く読ませていただきました。
やっぱりハブって怖いですねぇ。
家でタンクチャージしてる時にも出てくる事があります。
今まで3回出くわしました。
中には向かってくるヤツまで居ます。めっちゃ怖いです。

はじめまして。
こうしてブログを書いていらっしゃるのだし、「無事だ」という結果がわかっているのに、ドキドキして読みました。
ほんとに怖い!そして噛まれたのに、一夜を過ごしたなんて(たとえ微量な毒だとしても)すごすぎます!
0.2ccの毒で、殺傷能力があると原ハブ屋のおじさんが言ってましたよ...
本当によかったですね。

『祝!引っ越し』(笑)

ハブ話はこんないきさつやったんですね〜
ここでご縁があってよかったと1人でホッとしてしまったやないですか・・・

前があるから今があるとはよく言うけど、こんな体験はもうしないように注意して下さいね。

皆さん
長々とした記事を読んでいただいてありがとうございました。
コメントも本当にうれしいです。

cicoさん
cicoさんの家にハブ出るんですか!
もしかしてハブの通り道??
はやり山際は怖いですね。
僕はここ1〜2年、生きたハブは見ていませんが、やはり、居る所には居るんですね。ちょっと恐怖!

FORTUNEさん
はじめまして
ホントに知らないってことは恐ろしい事です。結果は良かったけど、大反省です。お恥ずかしい・・

鯨のシッポさん
生きて鯨のシッポさんに出会えて
本当に良かったです。
あまり無謀な事はしない性質なのですが、あの時はどうかしていた?としか思えません。
やはり人生、「魔が差す時」ってあるんですね。

いや~、すごい話です。
これは、すごいです。
ハブに噛まれても死なない男なんですね。
ハブには注意したいです。


テツテツさん
こんにちは

ハブに噛まれても死なない!じゃなくて、たまたま死ななかっただけです。

今でも運だけを頼りに生きてます。

はじめまして!
バブに噛まれた体験記、拝見しました。知らない間に噛まれてるって怖いですね!!

読んでてドキドキしちゃいましたよ(汗)


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